以前は、お父さんと二人暮らし。お父さんに病いがあって、ドクターの訪問診察が月に二回行われていました。私も、不定期ですが、訪問していました。
いたいー痛いー
肩がイタいー
背中がいたいー
いたいー痛いー
とつぶやかれる人で、部屋の壁には広告紙の文字を切り抜いて、貼り合わせた芸術作品が張り巡らされて、つぶやき詩集もありました。
ドクターが痛いですねーどこが一番痛みます?痛いですねーと診察をしている隣で、おばあさんは、深い息を吐き出すように、じっとされていました。おばあさんはどうですか?と聞くと、目が見えにくいです。と丁寧に答えてくださいました。部屋はお父さんのつぶやきと芸術作品に溢れていて、その中に、白い花のように、そっと座っていたおばあさん。
数年がたって、家を離れて、共同生活になって、お父さんがなくなりました。おばあさんのベットの上にはお父さんの写真が何枚か飾られています。
今も、定期的にドクターが訪問していて、私もときどき伺います。
せんせー
お忙しいのにいつもありがとうございます。
お待ちしていました。
と玄関で出迎えを受けて、部屋に案内される。清楚な部屋、白い花の香りが立つような気持ちいい空気に満たされています。窓の外には、緑の野原が広がる。
調子はどうですか?
せんせー。本当に幸せです。
こんな所に住めて、
こちらの方も本当に優しくて。
本当に幸せです。
そうですか。よかったですね。
どこかに出かけましたか?
いいえ。
あら、この前行きましたよ!と職員の人。
そうでしたか?
春江のゆりの里に行きましたよ。
と聞くと、おばあさんは、満面の幸せいっぱい笑み。
そうでした。「ゆり」がいっぱい咲いていました。
せんせー。
毎晩寝るときに、先生の顔を思い出して寝るんです。
ありがとうございます。お父さんはどうですか?
お父さんは毎晩、拝んでいます。
お父さんは拝んでいるんですね!
はい。せんせー私のことを忘れないで!
診察が終わって、
おばあさんとドクターは手を繋いで
ヴァージンロード。
写真撮りますねーと言った途端、
おばあさん、ドクターの手を自分に引き寄せて
イヤだー
はずかしい。
お花が満開。
恋の季節です。
写真は春江の「ゆりの里」です。