いのち:旦那が亡くなってしまったんです。

はじめに彼女に会ったのは私がオレンジホームケアクリニックで働き始めた5年前。旦那さんは難病で在宅で生活をするために、看護師、介護士、リハビリ、Dr.、ケアマネ、近所の人と一日の間に、入れ替わり立ち替わり、人が出入りしていた時。一つの事に集中するのが得意な人なので、訪問時間が遅れたり、いつもと違う人が来たりすると、少し感情的になる人。

その年の夏に旦那さんが亡くなりました。それ以来、月に一度、会いに行っています。一年目。二年目。彼女は毎月日帰りのバス旅行に一人で申し込み、旅行先で友達をつくってまた旅行に行くことを繰り返していました。

三年目を過ぎた頃、実家の墓を整理して、福井の海が故郷になりました。そして会ったことのない父親を戸籍をたどって探しだし、再婚していた父親の家に手紙を出して、父の写真を送ってもらい、父と対面しました。初めての父の顔。

四年目。ハローワークに一緒に行きました。履歴書につける写真を取りにカメラのキタムラに行く時の勝負服の色は、「赤」。旦那さんを無くしてからの復職した職場では、色々な作業を求められ、混乱してしまって感情的になって辞める。カフェやパン屋、幼稚園と近くの職場を求めて探すがいずれも叶わず、シルバーセンターに出会う。そこには、数々の仕事があり、これもあれもそれもと、気がつけば四箇所の仕事を掛け持ちのキャリアウーマンに。

私の月に一回の訪問は、旦那さんが亡くなってからの数年は、家に伺い、寂しさ、苛立ち、不安、をきいていましたが、いつしか、丸亀製麺にいったり、はま寿司にいったり、ミスタードーナツにいったり。

ある時、鰻屋に行きました。その鰻屋は旦那さんと何回も何回も行っていた馴染みの店。亡くなる前、タクシーで食べに行ったが満席で食べれずに泣く泣く家に帰った鰻屋。

席についてメニューを持って来た女将さんの顔を見るなり、ポロポロと落ちる涙。

きいてましたよ。
女将さん。旦那が亡くなってしまったんです。
わかっていますよ。きいていました。
女将さん。旦那が亡くなってしまったんです。
今日は美味しい鰻を食べてください。

言葉は必要ありませんでした。
鰻がうまかった。

先週、彼女に会いに行ったのですが、来月の予定の話になりました。旦那さんの命日が近いので、お経さんでもあげましょうか?と聞きました。私はバッチリと袈裟をきて、長めのお経をあげようと思っていたら、彼女から一言。

そのあと、「はま寿司」いける?

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