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グリーフケア:山の笑み。(2013年冬)

2012年の春に沖縄から福井に
生活をする場を移した。

その頃、ばあちゃんは
大きく曲がったひざを
足をゆっくりゆっくり引き寄せて
歩いていた。

椅子に座って
じっとテレビをみて
甘い菓子を食べるばあちゃん。

おはよ。
ありがと。
おやすみ。

何かを自分から話すのでもなく
テーブルのそこにいつもいた
ばあちゃん。

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梅雨の季節のころ
朝、ばあちゃんがうまく話せない
と急いで病院に連れて行った.

夏になり、ばあちゃんは車椅子に
乗って戻ってきた。

ずっと家で生活をしていたばあちゃんが
週に何度か出かけることになる。
出かけた先で風呂にはいる生活。

夕方、玄関先でばあちゃんを迎え
家に入って、車椅子のタイヤを
雑巾でふいていると、ばあちゃんは
不思議そうな顔で私を見る。

車椅子のタイヤ
拭き終わったよ。ばあちゃん。

と言うと、
不思議そう。

ばあちゃん、車椅子に
乗ってるんやよ。車椅子の
タイヤを拭いたよ。

と言うと
「あーほうか。」
とうなずく。

ベットの上でも目を閉じ
車椅子の上でも目を閉じる生活。
そして
「ありがと」
と夜になって車椅子から
ベットに移る。


秋。
ベットの上が
生活の場になった。

山の色が深くなるように
ばあちゃんの眠りも深くなる。

ばあちゃん、玄関先の金木犀が
咲いたよ。と小さな花瓶にさす。

いつしか
「ありがと」
の声がなくなる。

眼を開けたり、
口元をゆるめたり。

そして
じっと先を見つめるだけ。

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落ち葉が舞う。
秋が終わりを告げた。

呼吸がおかしいと
看護師さんから呼ばれて
病室にいくと
ばあちゃんは息をしていた。

ありったけのばあちゃんで
息をすいこんで
息をはいていた。

息をすいこんで
息をはく。
ありったけのばあちゃんで
生きていた。

ばあちゃん、大丈夫だよ。
ばあちゃん、みんないるよ。

と声をあげるが、ばあちゃんは
息をすいこんで
息をはく
生きていた。

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一月後の法事。
ばあちゃんは山にかえる。
遠くの山には白い雪。
どこにいても山がある場所。

ばあちゃんの
「おはよ。」
「ありがと。」
「おやすみ。」
は山にあるのだとわかった。

大きな山の恵み、笑いを
ばあちゃんは持っていた。

ばあちゃん
ありがとう。